自傷行為に見る精神障害

自傷行為に見る精神障害

 「リストカット」という言葉に最近聞きなじみがある人は増えてきたように思われる。医療の現場では、1970年代に入ってから自分の手首を自分で切る女性の姿が見られるようになり、また、そのような女性たちが薬を大量に飲むような行為が相次いだ。これらの症状は、「境界性パーソナリティー障害」の一つであるとされている。境界性パーソナリティー障害は女性の患者数が男性の約3倍とされている。今回はこの境界性パーソナリティー障害を見ていく。

 そもそもパーソナリティー障害とは、分類や診断が難しい病気とされている。しかし、複数あるパーソナリティー障害のどれもが、認知や感情のコントロール、対人関係において問題を抱える病気であることは明らかになっている。その中の境界性パーソナリティー障害とは、神経症と精神病の境界に位置することからその名がついている。症状としては、まず基本的に不安感や虚無感に襲われていることが挙げられる。また、他者から見捨てられることに強い不安を覚え、それを阻止するためには恐ろしいほどの努力を行う。その努力の一環として、気を引くために自傷行為や多量服薬、摂食障害、自殺未遂を繰り返す。対人関係においては、他人に過度に期待したり、反対に激しく攻撃したりと安定した関係を築きにくい。また、感情のコントロールもうまくできず、急に暴力的になったり衝動的になったりすることがある。これらの症状への対処の困難さから、この病気を毛嫌いする医者も多いと言われるほどである。原因は明白になってはいないが、虐待の経験、幼少期の親、特に母親との関係がうまくいかなかったことなどが考えられている。治療法としてはカウンセリングが主たる方法であり、薬物は補助的に用いられる。薬物が処方された場合、患者が致死量に至る服薬をしないために、医者や近親者の適切な対応が求められる。近年は自傷行為の跡や多量服薬の証などをSNSにアップロードする若者が多く見受けられる。このような人たちに対し、不快だと攻撃するのではなく、心の中に不安が巣食っていることや行為の意味を理解し、通院を勧めたり場合によっては入院措置を取ったりするべきだろう。

 境界性パーソナリティー障害は、近しい人が罹患すると、自分が攻撃の対象になってしまい、対処に困る病気だろう。いきなり目の前で自傷行為や自殺未遂をされても混乱するに違いない。しかし、それでその人を見捨ててしまうと、患者の「見捨てられ不安」を刺激し、その人の症状はますます酷くなる病気である。この病気の存在と症状、対処方法を知り、適切な処置がなされる助けとなることを願っている。

参考文献

・牛島定信、パーソナリティー障害とは何か、講談社、2012、3-6, 103-119

・京都大学心理学連合編、心理学概論、ナカニシヤ出版、2016、306

・鈴木薫、境界性人格障害患者に関するわが国の最近6年間の文献的研究~看護上の問題行動に焦点を当てて~、The Journal of Tokyo Academy of Health Sciences(6)、2013、9-14

・厚生労働省、知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス、パーソナリティー障害、https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_personality.html

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