社会主義思想の変遷と実現

 かつて、大学生ならみなマルクスの『資本論』を読んでいると言われた時代があった。この本は、19世紀にマルクスによって書かれた社会主義思想に関する本である。社会主義と聞くと、かつてのソビエト連邦や中国、ベトナムを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。社会主義思想の内容と、それを実現した人や国についてみていく。

 社会主義思想を最初に示したのはマルクスとその協力者エンゲルスとされる。マルクスは、人間を「類的存在」、つまり自然や他者とのかかわりの中で生きる存在であると考えた。そして、人間社会からこの連帯感を失わせ、利己的な人間を生み出し「人間疎外」を生んだ資本主義社会を否定した。マルクスによれば、人間は労働に対し根本的な喜びを見出す生き物である。しかし、資本主義社会では労働力までもが商品化され、労働者の喜びは失われている。しかも、労働による産物は資本者の物になり、「労働疎外」の状態にある。また、労働疎外になると、労働者はこの状況を生み出したブルジョワ(資本者)と対立する状態になり、これは人間疎外に該当する。この原因は資本主義そのものにあるのだから、革命によって社会制度を根本から変革することが必要であるとマルクスは主張した。革命によって作る社会は、生産手段を社会全体の共有財産とする共産制として、労働者階級(プロレタリア)によるものであるべきだと考えた。これにより、人間性は回復されるとした。マルクスの思想を受け継ぎ、共産制による国家が誕生した。まずは、20世紀前半にレーニンによってソビエト社会主義共和国連邦が樹立された。レーニンは、エリートによる革命の実行が必要であるとして、それの消滅を目標としつつも過渡期として独裁が行われるとした。実際、レーニンは自らの所属する共産党以外の政党を非合法であるとして排除したが、独裁政権はレーニンからスターリンへと受け継がれていった。一方、20世紀中ごろには毛沢東が中国共産党による中華人民共和国を樹立した。中国では当初、共産党は主導する政党であって、独裁ではないとしていたが、やがて現在の共産党独裁体制へと移行した。毛沢東は社会主義化を急速に進めるが失敗し、社会主義批判勢力が台頭した。毛沢東はこの批判勢力を粛正した。これを文化大革命と呼ぶ。

 現在でも、社会主義や共産党による政治を行う国がある。大学生が全員『資本論』を読んでいるような時代ではなくなったが、社会主義について知っておくに越したことはないだろう。

参考文献

・第一学習社編集部、テオーリア 最新倫理資料集、第一学習社、2017、214-217

・渡部哲治、新倫理 新訂版、清水書院、2017、114-116

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