以下では、哲学(Philosophy)を学ぶうえで押さえておきたい用語を100個厳選し、それぞれ簡潔に解説します。西洋古代から現代哲学、東洋哲学や分析哲学・大陸哲学など、多岐にわたる領域のキーワードを含んでいます。学習や調べものの際の手がかりとしてご活用ください。
哲学用語100選
- 哲学(Philosophy)
「知を愛する」という語源を持つ学問領域。世界や人間のあり方、知識や存在、価値など根源的な問題を理性的・体系的に探究する。 - 形而上学(Metaphysics)
物理的世界を超えた存在や本質を扱う学問領域。「存在とは何か」「実在とは何か」など根本原理を問い続ける。 - 存在論(Ontology)
「存在そのもの」について探究する哲学領域。何が、いかに「ある」のか、存在の構造や分類などを扱う。 - 認識論(Epistemology)
「知識とは何か」「いかにして知り得るのか」を問う領域。知識の成立条件や正当化の問題などが中心的テーマ。 - 倫理学(Ethics)
善悪や正義、美徳など、人間の行為や価値判断を扱う領域。規範倫理学、メタ倫理学、応用倫理学などに細分化される。 - 美学(Aesthetics)
美や芸術、感性の働きを研究する領域。芸術作品の本質や美的価値の基準などを論じる。 - 論理学(Logic)
正しい推論の形式や法則を扱う学問。三段論法、命題論理、述語論理などが代表的な研究対象。 - 形而下学(Physics / Natural Philosophy)
形而上学の対比として、物理的世界や自然現象を探究する領域。近代以前は自然哲学とも呼ばれた。 - 唯物論(Materialism)
世界の根源を物質(マター)とみなし、精神や意識も物質の産物と捉える立場。対立概念は唯心論。 - 唯心論(Idealism)
世界の根源を精神や観念に求める立場。物質世界は精神的実在の二次的な表れとみなされる。 - 二元論(Dualism)
物質と精神、身体と心など、二つの独立した実体があると考える立場。デカルトの心身二元論が代表例。 - 一元論(Monism)
世界は一種類の実体によって成り立つという立場。唯物論や汎神論、スピノザの一元論などがある。 - 実存主義(Existentialism)
実存(具体的な人間存在)を根本問題とし、自由や責任、主体性を強調する近現代の思想。サルトルやカミュなどが代表。 - 現象学(Phenomenology)
フッサールが創始。意識に直接現れる「現象」を厳密に記述し、本質を探る哲学的方法。 - 実用主義(Pragmatism)
思想や概念の真理性は、その実践的効果や有用性によって測られるとする立場。パース、ジェイムズ、デューイらが代表。 - 経験論(Empiricism)
知識の源泉を感覚経験に求める立場。ロック、バークリ、ヒュームらが主唱。対比概念は合理論。 - 合理論(Rationalism)
知識の主要な根拠を理性や論理に求める立場。デカルト、スピノザ、ライプニッツらが代表的。 - 主観(Subjectivity)
個人の内的視点や意識の側。対概念としての客観(Objectivity)と対比される。 - 客観(Objectivity)
個人的・主観的立場を離れ、一般性・普遍性を備えた視点。科学的知識や論証で重要視される。 - 間主観性(Intersubjectivity)
複数の主体が共有する意識や経験、理解の領域。現象学や社会学的研究で重視される。 - コギト(Cogito)
デカルトの有名な命題「我思う、ゆえに我あり(Cogito ergo sum)」に登場する「思考する私」を指す概念。 - アプリオリ(A priori)
経験に先立って成立する認識や真理。カントの理論で重要。対概念はアポステリオリ(後天的)。 - アポステリオリ(A posteriori)
経験を通じて得られる認識や真理。アプリオリとの区別は認識論における大きな争点。 - タブラ・ラサ(Tabula Rasa)
ロックが提唱した「白紙説」。人間の心は生まれたとき白紙状態で、経験により知識が書き込まれるとする見方。 - 二律背反(Antinomy)
同程度に正しい根拠を持ちながら、互いに矛盾する主張。カントの「純粋理性批判」で提示された。 - ダイアレクティック(Dialectic / 弁証法)
対立する概念や命題(テーゼとアンチテーゼ)を統合して新たな結論(ジンテーゼ)に至る思考方法。ヘーゲルで有名。 - テーゼ-アンチテーゼ-ジンテーゼ(Thesis-Antithesis-Synthesis)
弁証法の三段階構造。対立する見解を更なる高次の統合へ導く動的プロセス。 - 純粋理性(Pure Reason)
カントが区別した「経験に依拠しない理性の働き」。形而上学的対象を思考するが、その限界を指摘する。 - 実践理性(Practical Reason)
カントの概念。道徳や倫理に関わる人間の理性の領域。道徳法則(定言命法)を打ち立てる力を持つ。 - 定言命法(Categorical Imperative)
「それが普遍的法則となるように行為せよ」といったカントの道徳律。条件づけられない絶対的な命令。 - 功利主義(Utilitarianism)
行為の善悪を「最大多数の最大幸福」という基準で判断する立場。ベンサムやミルが代表的思想家。 - 徳倫理(Virtue Ethics)
行為の正しさよりも、人間性や美徳の涵養に焦点を当てる倫理理論。アリストテレスの思想に淵源がある。 - 義務論(Deontology)
行為の善悪を結果ではなく、行為そのものの遵守すべき義務・法則に基づいて判断する倫理理論。カントが代表。 - 自然主義的誤謬(Naturalistic Fallacy)
「あるがままの事実」(自然)から「あるべき」(価値)を直接導く誤り。G.E.ムーアが指摘した。 - 実存の三段階(Three Stages of Existence)
キルケゴールが論じた人生観の三形態。美的実存、倫理的実存、宗教的実存へと深化するとされる。 - 死への存在(Sein-zum-Tode)
ハイデガーの用語。人間(Dasein)は死を意識することで本来的な実存へと向かう存在であるという思想。 - ダーザイン(Dasein)
ハイデガーが用いる「そこにある存在」を意味する概念。人間存在の在り方を示す中心的用語。 - ニヒリズム(Nihilism)
世界や人生に本質的意味や価値がないとする立場。ニーチェはこのニヒリズムを乗り越える「超人」を説いた。 - 永劫回帰(Eternal Return)
ニーチェの思想。世界や人生は永遠に同じことを繰り返す運命にある、という根源的発想。 - 超人(Übermensch)
ニーチェが唱えた概念。既存の道徳や価値を乗り越え、新しい価値を創造する高次の人間像。 - 自然法(Natural Law)
人為的に制定される実定法とは別に、普遍的な正義や道徳の根拠となる法が自然に存在するとする考え方。 - 社会契約説(Social Contract Theory)
ホッブズ、ロック、ルソーらが提唱。国家や政治権力は、個人間の契約や合意によって成立するという思想。 - リヴァイアサン(Leviathan)
ホッブズの著作題名および国家を巨獣になぞらえた概念。自然状態の混乱を防ぐために絶対的権力が必要と論じる。 - 一般意志(General Will)
ルソーが提唱。公共の利益を目指す共同体の意志であり、国家の正統性の基盤となるとする。 - 弁証的唯物論(Dialectical Materialism)
マルクスとエンゲルスが発展させた歴史観・哲学。社会や歴史を物質的生産関係の弁証法的な変化として捉える。 - 史的唯物論(Historical Materialism)
社会の構造や歴史の展開を、生産手段と生産関係(下部構造)によって規定されると見るマルクスの理論。 - 唯名論(Nominalism)
普遍や抽象概念は人間の言語上の名目にすぎず、実体としては存在しないとする中世哲学の一潮流。 - 実在論(Realism)
普遍や観念が言語を超えて実在するという中世ヨーロッパの立場。唯名論と論争を繰り広げた。 - 分析哲学(Analytic Philosophy)
イギリス・アメリカを中心に展開した哲学潮流。言語分析や論理学を用いて哲学的問題を明確化する。 - 大陸哲学(Continental Philosophy)
ヨーロッパ大陸で発展した哲学潮流の総称。現象学、実存主義、構造主義、ポスト構造主義などを含む。 - 論理実証主義(Logical Positivism)
ウィーン学団が中心。科学的に検証可能な命題のみを有意味とし、形而上学を排除しようとする立場。 - 言語ゲーム(Language Game)
ウィトゲンシュタイン後期の用語。言語の意味は、それが使われる具体的状況=ゲームのルールで規定されるという考え。 - 家族的類似(Family Resemblance)
ウィトゲンシュタイン後期の概念。定義できない概念でも、多様な用法がゆるやかにつながる共通点を持つことを指す。 - 私的言語論(Private Language Argument)
ウィトゲンシュタインの議論。他人から検証できない純粋に内面的な言語は成立し得ないとする考え方。 - 構造主義(Structuralism)
人間の思考や文化現象の背後に、言語学的・体系的な「構造」があるとみなす学派。ソシュール、レヴィ=ストロースら。 - ポスト構造主義(Post-structuralism)
構造の安定性を疑い、多義性や不確定性を強調する思想潮流。デリダ、フーコーなどが代表。 - 脱構築(Deconstruction)
デリダが提唱。テクストや思想の内部にある二項対立や前提を解体し、新たな意味を発見する方法論。 - 解釈学(Hermeneutics)
テクストや文化現象を「解釈」する学問。ガダマーらが人間存在そのものが解釈的であると主張。 - 言語論的転回(Linguistic Turn)
現代哲学で言語の分析が中心的テーマとなり、認識論や存在論を言語という観点から再考する動き。 - ガリレオ的世界観(Galilean Worldview)
近代科学革命以降の世界理解。定量的・数学的法則を重視し、感覚的質感を二次的なものとみなす。 - 科学哲学(Philosophy of Science)
科学的な理論や方法、実在論・反実在論などの問題を哲学的に考察する領域。クーン、ポパーらが著名。 - 反証可能性(Falsifiability)
ポパーが唱えた科学理論の基準。理論が誤りである可能性をテストできるかどうかで科学性を判断する。 - パラダイム(Paradigm)
クーンが提唱。ある時代や共同体を支える科学的な枠組み。パラダイムシフトとはその枠組みの変革を指す。 - フッサール的還元(Phenomenological Reduction)
フッサール現象学での方法論。自然的態度を中断し、意識に与えられる現象を純粋に考察する。 - ナトゥーラル・カインド(Natural Kind)
自然界に実在するとされる種別やカテゴリー。哲学や科学で「本質」が存在するかどうか論争がある。 - カテゴリー錯誤(Category Mistake)
リルの用語。ある概念をそれが属さないカテゴリーに無理に当てはめる誤り。例:大学を建物の集合としてしか捉えないなど。 - バッド・フェイス(Bad Faith / 自己欺瞞)
サルトルの実存主義で用いられる概念。人間が自らの自由を回避して、言い訳や自己欺瞞に陥る状態。 - アブソリュート(Absolute)
一切の相対性を超え、無条件に成立するもの。神や絶対的精神など、形而上学での究極原理を指す。 - 絶対精神(Absolute Spirit)
ヘーゲルの哲学における最終地点。自己意識を通じて歴史を動かし、弁証法的に発展していく普遍的精神。 - ライプニッツのモナド(Monad)
宇宙を構成する最小単位としての「単子」。それぞれが完結した精神的実体だが、神による予定調和で連動する。 - 目的論(Teleology)
世界や自然現象に目的やゴールが内在すると考える見方。アリストテレスの自然学や神学的議論などで重視された。 - 開かれた社会(Open Society)
ポパーが語った民主的・自由主義的な社会モデル。批判的思考と多元性を尊重する。 - ノモスとピュシス(Nomos / Physis)
古代ギリシアにおける人為的法や慣習(ノモス)と自然や本性(ピュシス)との区別。ソフィストたちの議論が有名。 - 懐疑主義(Skepticism)
確実な知識や客観的真理を懐疑する立場。古代ギリシアのピュロン主義やデカルトの方法的懐疑などがある。 - ストア派(Stoicism)
古代ギリシア・ローマの哲学派。自然の理性に従い、感情に乱されない「アパテイア」を理想とする。 - ヘドニズム(Hedonism / 快楽主義)
人間の行動原理や価値を快楽に求める立場。エピクロス派などが代表的。 - ユダイモニア(Eudaimonia)
アリストテレスが説く「善き生」を意味する幸福。単なる快楽でなく、徳を実践する充実した生を指す。 - 中庸(Golden Mean)
アリストテレスの徳倫理の鍵概念。過度と不足の中間が徳となる。勇気は臆病と無謀の中間など。 - ウェルタンスシャウング(Weltanschauung / 世界観)
個人や文化が持つ世界全体への基本的な見方や考え方。哲学や宗教、芸術に大きく影響する。 - 理想国(The Republic)
プラトンの著作。正義とは何かを問い、哲人王の統治する国家像を提示。 - 洞窟の比喩(Allegory of the Cave)
プラトンが示したイメージ。感覚世界は影にすぎず、本当の真実(イデア)は外の光の中にあると説く。 - イデア(Idea / Form)
プラトン哲学での永遠不変の原型。感覚的世界の個物はイデアの映しにすぎない。 - エイドス(Eidos)
ギリシア語で「形相」や「本質」を指す言葉。アリストテレスの形而上学で質料(ヒュレー)と対応して論じられる。 - 四原因説(Four Causes)
アリストテレスの万物説明。質料因、形相因、作用因、目的因の4種類の原因で事物を理解する。 - アパテイア(Apatheia)
ストア学派で説かれる「不動心」。情念に支配されない、理性的な心の状態を意味する。 - 中道(Middle Way)
仏教の根本概念。極端に走ることなく、適切な方法や均衡を保つ修行・生活態度。 - 縁起(Pratītyasamutpāda)
仏教の基本教義。あらゆる事物・現象は相互に依存して起こり、固定的・独立的な実体はないとする。 - 空(Śūnyatā)
大乗仏教の核心概念。すべての事物は固定した実体を持たず、相依性のみがある状態を示す。 - 無我(Anātman)
仏教の教義。永遠に変わらない「自己(アートマン)」は存在しないとする。輪廻転生の捉え方にも影響。 - 道(Tao / 道)
中国哲学の根本概念。老子・荘子においては、宇宙の根源的な法則・自然そのものを指す。 - 無為自然(Wuwei)
道家の思想。人為的な作為を捨てて、自然のままに従う態度を理想とする。 - 仁(Ren)
孔子が説く中心徳。他者への思いやり・愛をもって人間関係を円滑にする道徳的指針。 - 礼(Li)
孔子の倫理において、社会秩序や共同体を保つための儀礼や形式。その内面化が重要とされる。 - 忠恕(Zhong-Shu)
孔子が重視した徳目。忠は自分の真心を尽くすこと、恕は他者への思いやりを意味する。 - 中庸(Doctrine of the Mean)
儒家思想における重要概念。過不足なく調和を図る徳の実践。アリストテレスの中庸とも比較される。 - 徳治主義(Rule by Virtue)
儒家思想における政治哲学。法や罰よりも、君子の徳と教化によって人々を治めることを理想とする。 - ロゴス(Logos)
古代ギリシア語で「言葉」「理性」「原理」を意味。ヘラクレイトスやストア学派で宇宙秩序の根源として論じられる。 - エピクロスの庭(Garden of Epicurus)
エピクロス派の学園の呼称。心の平静(アタラクシア)と持続的快楽を追求し、死の恐怖を克服する思想を説く。 - アタラクシア(Ataraxia)
心の平穏を指す古代ギリシア・ローマ哲学の概念。エピクロス学派やストア学派で重要視された。 - 超越(Transcendence)
経験や感覚を超えた存在や次元を指す。カントで超越論的(transcendental)という言葉が重要な意味を持つ。
おわりに
以上の100項目は、古代ギリシアから現代に至るまでの西洋哲学、さらには東洋思想の主要概念も含め、哲学の多様な側面をカバーしています。哲学は他の学問や日常生活との関連も深く、これらの用語の背景を掘り下げることで理解がさらに広がります。ぜひ、興味を持った概念から深く学び、思索を深めていただければ幸いです。