こんにちは、レポトンです
- 倫理的ジレンマってよく聞くけど何だろう?
- 難しそうでよくわからない
医療や看護について学んでいる方には、このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?
医療の現場には、患者さんの生命や生活に深く関わる場面が多々あり、その都度、正解のない難しい選択を迫られることがあります
この記事では、看護学生の方にもわかりやすいように、倫理的ジレンマの基本的な考え方から、具体的な事例、そして対処方法について詳しく解説していきます
それではどうぞ!
倫理的ジレンマとは?
倫理と道徳の違い
まず「倫理的ジレンマ」を理解する前に、「倫理」と「道徳」の違いについて簡単に触れておきましょう。
- 道徳(morality):個人や社会が持つ善悪の判断基準や価値観のこと。
- 倫理(ethics):特定の専門分野や社会集団で共有される行動基準や規範のこと。
医療の分野においては、「医療倫理」が患者さんや医療従事者が互いに尊重し合いながら最適な医療を提供するための基盤となります。医療倫理には「自律尊重(自己決定権)」「無害原則」「善行原則」「正義原則」といった大切な考え方があるのです。
倫理的ジレンマの定義
倫理的ジレンマとは、「どちらを選んでも一方の価値や原則を侵害してしまうような状況」を指します。例えば、患者さんの自己決定を尊重したいという気持ちと、患者さんを守りたい(善行)という気持ちが対立してしまう場合です。医療従事者がジレンマを感じるときは、複数の選択肢の中で、それぞれに正当性やリスクがあり、簡単に“正解”が見つからないケースがほとんど。こうしたジレンマをどう解消し、患者さんに最善を尽くすのかを考えることが、看護の重要な役割の一つです。
医療現場でよくある倫理的ジレンマの例
ここでは、医療現場で看護師が直面しやすい代表的な倫理的ジレンマについて、いくつか取り上げてみます。
インフォームドコンセントの難しさ
患者さんへの情報開示
医療行為を行う際には、事前に患者さんに対して十分な説明(インフォームドコンセント)をし、納得したうえで治療に同意してもらう必要があります。しかし、患者さんの理解度や精神的な状態によっては、すべてを正直に伝えるとかえって不安や混乱を招く恐れもあります。特に、重篤な病状の場合や末期がんの場合など、「どこまで正確に伝えるべきか」「どのように伝えれば受け入れてもらえるのか」という点でジレンマが生じがちです。
看護師の立場と責任
また、医師が伝えた内容を、患者さんや家族が理解できていないと感じる場合、看護師が補足説明を行うこともあります。ここで、医師の説明をそのまま伝えるだけでなく、患者さんが抱えている不安や疑問を聞き取り、わかりやすく咀嚼して伝え直すことが看護師の役割です。しかし、一方で医師からの指示や病院の方針と患者さんの希望が食い違う際、看護師は間に立って調整を行うため、ストレスや葛藤を抱えることも少なくありません。
自己決定権と家族の意向の対立
患者さん本人の希望 vs. 家族の希望
患者さんが意識清明であり、自らの意思をはっきり示せる場合、医療行為は基本的に患者さん本人の自己決定を尊重すべきです。しかし、家族がその決定に強く反対するケースもあります。たとえば、高齢の患者さんが「もう積極的な治療は望まない」と言っているのに、家族は「少しでも長生きしてほしい」と希望する場合。看護師としては、患者さんの気持ちを大切にしたい反面、家族の心情も考慮しなければならず、板挟みになることがよくあります。
看護師のジレンマ
このとき重要なのは、患者さんの意思を可能な限り尊重しつつ、家族がなぜ反対しているのかをきちんと理解しようとする姿勢です。家族の恐れや悲しみ、時には「自分が何もできない」という罪悪感が背景にあるかもしれません。看護師は、単に「患者さんの意思を優先しましょう」と家族を説得するのではなく、両者の気持ちを橋渡しする存在として、対話の機会をつくることが求められます。
守秘義務と情報共有のバランス
プライバシー保護の原則
医療従事者には、患者さんの個人情報を守る守秘義務があります。これは患者さんの尊厳を守るためにも非常に重要なルールです。しかし、チーム医療が進む現代の医療現場では、医師や看護師だけでなく、薬剤師やリハビリスタッフ、ケースワーカーなど多職種が連携して患者さんをサポートします。そのため、患者さんの治療やケアに必要な情報を適切に共有することが不可欠です。
共有の限界と本人の意思
一方で「どこまで共有すべきか」という問題も生じます。本人が知られたくないと思っている情報でも、治療方針の決定に関わる重要事項であれば、しかるべき範囲で共有する必要があるかもしれません。逆に、デリケートな情報を広範囲に共有してしまうと、患者さんや家族のプライバシーが侵害される恐れがあります。このように、守秘義務とチーム医療とのバランスをどのように保つかは、看護師が日々頭を悩ませる問題の一つです。
ターミナルケア・終末期医療における倫理的ジレンマ
延命治療の限度
末期がんなどで予後が限られている場合や高齢患者さんで複数の疾患を抱えている場合、延命治療を続けるかどうかという選択を迫られることがあります。患者さんのQOL(生活の質)を重視して、苦痛の緩和を最優先とする「緩和ケア」を選ぶか、可能な限り生存期間を延ばすことを目標に、積極的な治療を行うのか。どちらが“正解”とは一概に言えませんし、患者さんや家族の考え方も多様です。
苦悩する看護師
看護師は、患者さんの苦痛を目の当たりにすることが多く、患者さん本人や家族から本音を聞く機会も多い職種です。患者さんが「もう治療はやめたい」と言っているのに、家族や医師は「諦めずに治療を続けるべきだ」と考えている場合、看護師は対立する思いのはざまで葛藤を抱えがちです。どのアプローチが患者さんにとって本当に幸せなのか、常に自問する必要があります。
医療資源の配分
ベッドや機器、スタッフの不足
現代の医療機関では、病床数や医療スタッフ、医療機器が十分に整備されていないケースも少なくありません。特に緊急性の高い患者さんが立て続けに運び込まれる状況では、「どの患者さんを優先的に治療すべきか」という厳しい選択を迫られます。これは、単に病院の事務的な問題であると同時に、倫理的ジレンマの一種とも言えます。
看護師の苦悩
たとえば、集中治療室のベッドが不足している場合、誰を優先してベッドを使うかを決めなければなりません。看護師としては、どの患者さんも平等に治療を受ける権利があると感じる一方で、救命の可能性が高い、もしくは緊急度が高い患者さんを優先せざるを得ない場面があります。いずれの判断を下しても、病院全体の方針や医療チームとの連携が重要となり、看護師一人では解決できない悩みを抱えることになります。
看護師が倫理的ジレンマに直面した時の対応
上記のような倫理的ジレンマに直面したとき、看護師はどのように行動すればよいのでしょうか。具体的な方法として、以下のステップがよく挙げられます。
状況の客観的把握と情報収集
まずは、問題となっている状況をできるだけ客観的に整理しましょう。患者さん本人の意向、家族の意向、医師の診断や治療方針、病棟や病院のルールなど、あらゆる情報を集めることが大切です。また、患者さんの生活背景や文化的・宗教的背景も見落としてはなりません。
倫理原則を当てはめて考える
先に述べた「自律尊重」「無害原則」「善行原則」「正義原則」の4つの医療倫理原則を意識しながら、どの選択肢がこれらの原則を満たすのかを検討します。すべてを完全に満たすことは難しいかもしれませんが、一番大事にすべき点はどこかを見極め、優先順位をつけて考えると方向性が見えやすくなります。
多職種との連携とカンファレンスの活用
ジレンマを一人で抱え込んでしまうと、視野が狭くなり、適切な判断を下しにくくなります。そこで、医師や薬剤師、リハスタッフ、ソーシャルワーカーなど多職種とのカンファレンスを活用し、さまざまな視点からの意見を聞くことが大切です。異なる専門性を持つスタッフの意見を取り入れることで、新たな解決策やアプローチが見つかることも珍しくありません。
患者さんや家族とのコミュニケーション
最終的には、患者さんや家族に対してどのように説明し、納得を得られるかが重要になります。特に、患者さんの価値観や思いをしっかりと確認しながら、医療チームの方針をわかりやすく伝えることが看護師の役割です。対話を重ねることで誤解や不安を減らし、よりよい合意形成につなげることができます。
自分自身のケア
倫理的ジレンマに直面すると、看護師自身も大きなストレスを抱える可能性があります。看護師としての責任感や使命感から、「患者さんのために」と頑張りすぎてしまうことも多いでしょう。しかし、適切なケアやサポートを提供するためには、看護師自身のメンタルヘルスを保つことも非常に大切です。上司や同僚に相談したり、院内のメンタルサポートシステムを利用したりして、自分を追い詰めすぎないようにしましょう。
おわりに
医療現場では、患者さんの生命や人生に大きく関わる場面が多く、そこには常に“正解のない選択”が存在します。看護師は、患者さんや家族と最も近い距離で関わり、患者さんの本音を聞き取り、ケアを提供する立場です。そのため、倫理的ジレンマに直面する機会も多く、時に苦悩を抱えることもあるでしょう。
しかし、看護師の存在価値はまさにそこにあります。苦しむ患者さんや家族の気持ちを受け止め、医療チームの意見をまとめ、対話を進めることこそ、看護の専門性の真髄とも言えます。ジレンマに対処するためには、一人で悩むのではなく、多職種とのカンファレンスや上司・先輩看護師との相談を積極的に活用しましょう。また、医療倫理の基礎知識や事例検討を学ぶことで、目の前の問題をより客観的に見つめられるようになります。
看護学生のうちは、どうしても知識や経験が不足していて戸惑うことも多いかもしれません。でも、臨床実習やケーススタディを通して、患者さんとの関わり方や他職種との連携方法、さらには自分自身のケアの方法を少しずつ学んでいくことで、将来の看護師としての「軸」ができていくはずです。倫理的ジレンマに直面したときこそ、看護の力が試されるとき。「自分ならどうするだろう?」と日頃から考えを深めながら、一歩ずつ成長していってくださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。医療現場で働く看護師や看護学生の皆さんが、今回の記事を通して倫理的ジレンマに関する理解を深め、少しでも自信をもって対応できるようになれば幸いです。これからの看護の未来を担う皆さんを、心から応援しています!