コミュニケーション哲学の計量化ー関連性理論と統合情報理論ー
1 背景
コミュニケーションとは何なのか? この問いには様々なアプローチから議論がなされてきた。その中でも、哲学的なアプローチからコミュニケーションについて考える理論構築は数多くなされてきた。本小論では、その哲学的なコミュニケーション理論を計量化する試みを行う。哲学と数値的な色合いの強い科学は相補的な関係でなくてはならない。本小論では、コミュニケーションという現象を軸にし、哲学と科学の橋渡し的な意義がある。
2 考察
今回は、関連性理論という哲学理論に対し、統合情報理論という神経科学の理論を補足的に導入する。関連性理論では、人間は言語を中心とした他者からの刺激に対し、「最小の認知労力と細大の認知効果」を計算しながら、解釈するとされている。このとき、人間は顕在化される想定の集合体ー認知環境から解釈を取り出す。
例えば、「支持率は40%だったね」と夕食前に家族が言ってきたとする。ここでの「支持率」とは内閣の支持率であろうと解釈される。「支持率」とは内閣に対して用いられる場合、意味をなすことが多く、40%という数値もそれに相応しいものである。もし、ほかの事象に対する支持率の場合、認知労力が余分にかかってしまい、認知効果は少ない。これが関連性理論の基本的な説明記述である。
これに対し、神経科学の統合情報理論を用いて、補足的に計量化を試みる。統合情報理論では、人間の意識の単位はΦ(ファイ)と呼ばれ、ビットで単位化される。人間の脳内にニューロン的なつながりができると、要素間のつながりができ、統合情報量が生まれるとされる。ニューロンという要素は他者からの刺激によってもシナプスと呼ばれる関係性を構築する。この点が関連性理論の「労力/効果」概念と類似している。
Φの値は擬似的に論じられている。要素間のつながりが単一的なとき、Φは20とされ、要素間のつながりが強く、相互作用と統合がバランスよくなされている場74とされている。すなわち、関連性理論でいう労力と効果のバランスが最適な場合は、Φの値も大きくなるのである。
すなわち、統合情報量が大きい状態というのは、関連性が高い場合のことだと言える。先述した支持率の場合、受諾した事実が内閣の支持率の場合、情報は統合され、Φの値は大きくなる。ほかの事実だと、情報の統合は少ない。先に挙げた擬似的なΦの値で推測するならば、前者の情報の統合は後者の3倍以上になる、とされる。関連性と統合情報量の類推から、以上の簡易的な軽量化が容易になる。
3 結果
情報の関連性が高いとき、Φの値も大きくなる。
4 結論
関連性理論という哲学理論と統合情報理論という科学理論の相性はよいことが以上の議論で示されたであろう。今回はこの2つの理論をコミュニケーションを媒介にして、扱ったが、ほかにも理論を結合することは可能である。哲学と科学はさらに接近したものになる必要がある。
参考文献
花本知子(2018)『意識はいつ生まれるのか--脳の謎に挑む情報統合理論』pp. 112-39, 亜紀書房
Speber. D. and Wilson. D. 1995. Relevance – communication and cognition. pp. 263-6, Blackwell.