「あっという間な1年のメカニズム」
様々な判断に影響を与える要因には心理的距離が関係している。これは判断を行う際、無意識に使われる材料の一つである。本論文では、12月になると1年があっという間であったと感じるメカニズムについて論じる。
井上・阿久(2015)によると、出来事が直接的な経験の一部ではないときには出来事は何らかの意味で心理的に遠くなり、その際に直接的な経験から切り離される心理的な側面は複数あるため、解釈レベル理論では心理的距離の下位概念として、今日と一年後といった時間的距離、日本と外国といった空間的距離、自分と他人といった社会的距離、現実と仮装場面といった仮想的距離の4側面を置いている(Trope, Liberman & Wakslak, 2007)。心理的距離が遠い出来事に関しては、抽象的な解釈で本質的な点、望ましさを重視する傾向にある。一方で心理的距離が近い場合は、具体的な解釈で副次的な点、実用性を重視する傾向にある。例えば、3月に一人暮らしを始める場合、8月の時点では心理的距離が遠いが、1月の時点では心理的距離が近い。そのため、8月の時点ではお洒落で眺めの良い場所に住みたいと抽象的に考えていても、1月の時点では家賃や必要な予算など具体的で実用的な点を考えるようになる。結婚を例にすると、1年後に結婚する人は新婚生活に想いを馳せ、1ヶ月後に結婚を控えている人は具体的な結婚式の方法や誰を呼ぶかなどを考えるということである。これらのことから、12月になると1年があっという間であると感じるメカニズムには心理的距離が関係しているといえる。12月になるとその年の1月や2月は心理的に遠く感じる。心理的距離が遠いと抽象的な解釈で本質的な点、望ましさを重視するため、12月までの重要な出来事ばかり思い出す。1月とは違い、12月の時点からすると、11月や10月の心理的距離は比較的近い。心理的距離が近い場合は、具体的な解釈で副次的な点、実用性を重視する傾向にあるため、最近の出来事は明確に記憶されている。1年の中で大きな出来事は2から3個程度であり、多くても月に1回ほどであるため、1年を振り返ると抽象的で早く過ぎ去ったように感じる。
よって、12月になると1年があっという間に感じてしまうメカニズムには、心理的距離の中の特に「時間的距離」が関係している。そして、1年だけでなく、1週間といった時の流れにも言えると考察する。
参考文献
井上裕珠, & 阿久津聡. (2015). 「特性」 としての解釈レベルを考える─ BIF 尺度に注目して─. マーケティングジャーナル, 34(3), 83-98.