嘘つきは泥棒の始まり?

嘘つきは泥棒の始まり?

 「嘘つきは泥棒の始まり」ということわざがある。このことわざの意味は、「平気で嘘をつくようになると、盗みも平気でするようになる」ということである。このことわざによると、 嘘をつくということは、悪の道へ入る第一歩であることを示すが、果たして嘘は必ずしも悪いものなのか。本論文では、嘘の種類や場面から必ずしも嘘をつくことが悪いことなのかを検討する。

 次のような場面を想像してほしい。赤い自動車が2人の人物の近くを通ったとする。そこに警察が来て、「ナンバーが◯◯◯◯の白い自動車を見なかったか」と尋ねた。すると1人の人物は、その自動車が通ったことを知っていたにもかかわらず見ていないと答えた。もう片方の人物は、道路を注視していなかったため自動車か、トラックかの判断ができなかった。そのため、見ていないと答えた。この例では、どちらも「見ていない」と答えているが、車が来たことを知っている前者は嘘をつき、後者は間違ったことを言ってはいるが意図して答えているわけではないため、嘘をついたことにはならない。これが嘘か嘘ではないかの判断の一つである。さらに、事実との差の大きさによって、嘘はいくつかの種類に分けられる。事実よりも大げさに言う誇張表現、ごまかしたり一部の情報を隠したりする巧妙な嘘、叱られないための嘘、他人を傷つけないための嘘と様々である。誇張表現については例えば、何かスポーツを行う際にどうしても人数が足りず、呼ばれたとする。人数を合わせるために呼ばれたにもかかわらず、「自分がどうしても必要とされていた」と言うこと、すなわち話を「盛る」という表現の嘘のことである。さらに叱られないための嘘に焦点を当てると、子供のしつけとして「嘘は悪いものであるから絶対に口にしてはならない」と言い聞かせると、嘘をついた時に正直に謝ることができなくなってしまう。その結果、嘘に嘘を重ね、最終的には嘘つきに育ってしまうことも無いとは言い切れない。他にも、人を傷つけない嘘としては子供が描いた絵に対して「上手だね」と答えることである。自分には決して何の絵を描いているかわからないという場面でも、正直に「下手すぎるため、何を描いているかわからない」とは言わずに、「上手だね」と嘘をつくだろう。

 つまり嘘とは、嘘をつく側は、嘘だとわかっているにもかかわらず他者に本当だと信じさせようと意図して行う行為である。相手を傷つけないために嘘をつくこともあるため、すべての嘘が悪いと決めることはできないと言える。

参考文献

・故事ことわざ辞典「嘘つきは泥棒の始まり」

http://kotowaza-allguide.com/u/usotsukidorobou.html

・柴田誠. (2018). 嘘つきは本当に悪い人?.

・北村 英哉 心理学辞典 2020  246-254

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