ぬいぐるみによって癒される理由

ぬいぐるみによって癒される理由

 子供時代、お気に入りの毛布や、ぬいぐるみ、タオルなど肌身離さず持ち歩いた経験がある人は一定数存在する。本論文では、なぜそのような現象が現れるのかについて述べ、なぜぬいぐるみに触れると癒されるのかを考察する。

 お気に入りのぬいぐるみや毛布が存在するだけでなく、それを手に持ったり抱きしめて就寝することも珍しい光景ではない。この現象について解明したのがハリー・ハーロウである。

実験室で生まれたばかりの猿がタオル生地の布を離さないことに気づいたことが実験を行うきっかけとなった。ハーロウは2種類の「母親」の模型を製作した。1つは針金でできた模型で、胸の位置には哺乳瓶が固定されており、ミルクが出る仕組みとなっている。もう一つは、ミルクは出ないが柔らかい毛布でできている。なお、両方の模型ともヒーターで温められており、猿は抱きつくことで温かさを感じることができる。この実験の結果、生まれたばかりの子猿はミルクが出る針金でできた模型よりも、ミルクが出ない布製の模型に抱きついている時間の方が長かった。結果より、子供は肌の感覚を通して安心感を得ており、親子のスキンシップにも「安心感を得る」と言う意味が含まれていることが分かった。しかし、親が子供を長時間抱えることは困難である。そのような時に、親の代わりに心地よい感触と安心感を子供に与えるのが、冒頭でも述べた毛布やぬいぐるみである。心理学ではこれを「移行対象物」と呼ぶ。遠藤(1990)によると、Winnioot(1953)は、乳幼児が特別の愛着を寄せる特定の対象、愛着物(タオル,毛布等の布類やぬいぐるみ 等)に移行対象 (transition obljects )の術語をあて、それが子どもの情緒発達にポジティヴな意味を有することを強調し、移行対象はとくに分離の状況(入眠時や母親の不在等)で、乳房あるいは母親自身を象徴的に代理するため、子を落ち着かせ慰めるもの (soother)として機能する。他にも、くまのぬいぐるみを触って評価する場合と目視で評価する場合で回答に差が出るという研究結果も出ている。

 これらのことから、毛布やぬいぐるみは母親が与えてくれる心地の良いスキンシップの代わりとなり、子供を安心させる働きがあり、心地の良い肌の感覚は、子供に安心感を与えると言える。この働きは子供だけでなく、成長した大人にも例外ではなく、柔らかいぬいぐるみに触れると癒されるのだと考察する。

参考文献

遠藤利彦. (1990). 移行対象の発生因的解明: 移行対象と母性的関わり. 発達心理学研究, 1(1), 59-69.

坂口菊恵 心理学辞典 2020 274-276

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