ドイツの詩人であり作家でもあるE.T.A.ホフマンの物語集『ホフマン物語』の読者の多くは、物語の多くに神話的要素、すなわち古典ギリシャ・ローマ神話やその他の神話の源から引用されたものが含まれていることに注目している。ホフマンが神話的要素を指摘することはほとんどないが、実はこれらの神話的要素は、物語の主要テーマである悪との戦いや人生の目的を理解するための人間の探究心を表す微妙なメタファーやシンボルである。本稿では、ホフマンの物語における神話の存在と、それが人生と道徳の本質についてのホフマンの考えを伝えるために使われた方法について論じたい。
ホフマンの物語における神話の使用は、しばしば微妙で謎めいており、読者がさらなる調査や文脈なしに参照箇所を正確に特定することは困難である。このため、使用されている象徴のニュアンスを十分に理解することは困難である。本稿では、神話とホフマンのテーマとの関連性を探り、ホフマンが神話を利用して自身の中心的な関心事を定義したことに光を当てることを試みる。
ホフマンの物語における神話の最も顕著な例の一つは、『砂男』で、古代ギリシャ神話のナルキッソスを明確に参照している。ホフマン版では、ナサニエルというキャラクターはナルシストであり、ゲルマン民話に登場する「砂男」との闘いは、彼自身のプライドと虚栄心に対する内なる闘いの表象と見なすことができる。ナルキッソスは他の物語でも表現されており、例えば “黄金の壺 “では、オリンピアが自己陶酔的なギリシアの英雄の現代的解釈として捉えられている。いずれも、神話の存在は、困難な決断に直面したときに人々が感じうる恐怖や自己嫌悪のメタファーとして意図されているのである。
ホフマンはまた、善と悪の対立についての考えを表現するために、神話を利用している。これは『法輪の鉱山』に見られることで、フィレモンというキャラクターはギリシャ神話のゼウスというキャラクターを元にしている。ゼウスは正義と秩序の神とされ、ホフマンの物語では、混沌と不正に対する戦いを象徴している。この善と悪の対立は、「結婚式」のような他の物語にも見られ、オッティリーというキャラクターは、正義と秩序を象徴するギリシャ神話の女神アテナがモデルになっている。このように、ホフマンは神話を用いて、悪や抑圧に対する人間の闘いについて、道徳的あるいは哲学的な論点を示しているのである。最後の例として、『リトル・ザッハス』におけるプロメテウスへの言及は、次のような象徴として見ることができる。
