「体罰が起きてしまう理由と効果的な指導方法」
他者を指導する方法には2つある。その方法とは、「褒めること」と「叱ること」であるが、なぜ体罰といった極端な指導に行きついてしまうのか、そしてどちらの指導方法が有効であるか心理学の視点から考察する。
本論文では「普段から学習し、リハーサル(予習)したが、テスト本番で体調を崩し、あまり良い成績をあげることができなかった」という学習の一場面から考察を進めることにする。この場面は体調を崩したため、成績に影響が出たが、体調を崩さなければ、良い成績を残せた可能性も否定できない。なお、この成績の悪さが長期に続くとも言い切れない。極端に悪い成績や逆に極端に良い成績を出した後は、比較的平凡な成績になる。成績をグラフにしたとき、絶え間なく上下を繰り返すわけではない。この現象は心理学用語で「回帰現象」という。もう一つ「回帰の誤謬」という用語も存在する。これは、例えば、褒めることで、偶然その後の成績が悪くなった場合、褒めるという指導方法は有効でないと感じ、叱ることでその後の成績が偶然良くなった場合、叱るという指導方法が有効であると感じてしまうことを言う。体罰とは、生徒に教師という立場を利用し暴力を加えることであり、学校教育法の第十一条によると「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し、体罰を加えることはできない。」と明確に禁止が定められている。法律で定められているにも関わらず、体罰はなくならない。体罰を行う指導者は心理的な側面から見ると「回帰の誤謬」によって、「叱る方が成績が上がる」と誤った認識を行っているのだと考える。「ピグマリオン効果」という現象があるが、これはローゼンソールとジェイコブソンが提唱したもので、教師の抱く期待が、生徒の学習成績に影響を与えるということから、「期待をかけると、期待をかけられた方は期待通りに行動してしまうという」ということを明らかにした。
これは直接的に学習成績に影響を与えるというよりも、学習に対する意欲を上げることで結果的に成績向上に関与する。一方、「叱られる」という指導を受ける者は萎縮し、指導者の言葉通りに行動しなければならないと思い込み過ぎてしまう。暴力を受けると尚更である。
このことから、暴力による指導は学習者を萎縮させ、成績向上に関与することはない。長期的に叱る指導方法よりも、「褒める」指導法の方がピグマリオン効果から、成績が向上すると考えられる。
参考文献
・梶井芳明 心理学辞典 2020 245,977
・文部科学省「学校教育法」 https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1317990.htm(最終閲覧日:2021/11/5)