【序論】
本論文は、アファーマティヴ・アクションの正当性とその限界について、倫理的・法的観点から考察するものです。アファーマティヴ・アクションは、差別的な社会構造を是正するために採用される政策であり、特定の集団に対して優遇措置を取ることを意味します。ただし、その正当性に関しては様々な意見があります。本論文では、アファーマティヴ・アクションが倫理的に正当であるかどうか、また法的観点からその限界も含めて考察します。具体的には、アファーマティヴ・アクションが、平等原理や承認原理に基づく正当性を持つか、逆差別のおそれや法的反発を引き起こすことがあるかどうかを検討します。本論文は、アファーマティヴ・アクションをめぐる議論に対して、より深い理解を促すことを目的としています。
【本論】
アファーマティヴ・アクションは、過去の差別によって不利益を被ってきた集団に対し、その不利益を是正するための政策として採用されることがあります。例えば、アメリカ合衆国の大学入試においては、アフリカ系アメリカ人やヒスパニック系アメリカ人、ネイティブ・アメリカンなどの民族的少数派に対し、優先的な入学枠を設けることがあります。 しかし、アファーマティヴ・アクションにはその正当性をめぐる論争があります。一方で、アファーマティヴ・アクションは、平等原理に基づく正当性を持つと主張されます。つまり、過去の差別によって不当に不利益を被ってきた集団に対し、同等の機会を与えることが求められるというものです。また、アファーマティヴ・アクションは、承認原理にも基づいているとされます。つまり、社会において成果をあげることが困難だった集団に対し、適切な承認を与え、自己実現を促進することが必要であるというものです。 一方、アファーマティヴ・アクションには逆差別の懸念も存在します。つまり、ある特定の集団に優遇措置を取ることによって、それ以外の集団に不利益が生じる可能性があるというものです。例えば、ハーバード大学がアジア系アメリカ人の入学枠を削減する方針を示したことがあり、これは逆差別や差別的な措置であるとの批判がありました。 また、法的観点から見ると、アファーマティヴ・アクションには、等権利保護条項などの憲法に反する可能性があるとされます。たとえば、アメリカ合衆国最高裁判所は、ミシガン大学の入学枠政策に対して、「人種は過度に考慮されるべきではなく、入学者選抜においては可能な限り人種中立な方法が採用されるべきである」との判決を下したことがあります。 以上のように、アファーマティヴ・アクションには、正当性と限界をめぐる様々な意見があります。アファーマティヴ・アクションを正当化するためには、その政策が逆差別や法的問題を引き起こさず、平等や承認原理を適切に考慮していることが必要であると言えます。
【結論】
本論文の考察から、アファーマティヴ・アクションは、一定の正当性を持ちつつも、批判的に検討する必要がある政策であることが明らかになりました。平等原理や承認原理に基づく正当性がある一方で、逆差別のおそれや法的反発を引き起こす可能性もあるため、その限界を考慮する必要があります。したがって、アファーマティヴ・アクション政策の提唱や見直しにあたっては、倫理的・法的観点から慎重かつ綿密な検討が必要であると言えます。