先入観の種類と対策
人間には、認知の偏りや先入観がこころの仕組みとして存在する。それらは、心理学の用語では総称して「認知バイアス」と呼ばれている。人の様々な判断方法は、迅速な判断を支えているが、時にエラーを起こす。それが認知バイアスと呼ばれる。認知バイアスは複数知られていて、傾向が明らかになっているため、それを避けることもできる。
認知バイアスとして、まず「ギャンブラー錯誤」を紹介する。これは、確率に対し起こるバイアスである。例えば、コインを6回投げて6回とも表が出たとする。すると、次に出る確率は表も裏も1/2だが、裏の方が出そうだと考える傾向がある。カーネマンとトヴァスキーが1972年にこれを証明した。ギャンブラー錯誤は、評価がしやすい、生起頻度が高い現象は低い現象よりも気になるといった傾向により起こるとされる。次に、「生存者バイアス」というものがある。これは、生存者や成功者の話ばかりが取り沙汰され、失敗談が軽視される傾向のことを指す。しかし、死亡した人の話は聞けないので、生存者の話ばかり信じてはいけないことは少し考えれば分かるだろう。この生存者バイアスを回避した有名な事例がある。第二次世界大戦期のアメリカで、戦闘から帰還した戦闘機の被弾箇所の装甲を厚くする案が出た。しかし、それは反対された。なぜなら、その箇所を被弾しても帰還できた、つまりその箇所は被弾しても墜落せずに戦闘続行ができる箇所であり、逆に被弾していない箇所に攻撃を受けたら墜落する可能性があるからである。この考えにより、帰還した戦闘機が被弾していない箇所が強化された。これは、生存者バイアスに惑わされていない好例だろう。最後に、正常性バイアスについて紹介する。正常性バイアスとは、経験したことないような危険や脅威を過小評価する傾向のことを指す。これは、とりわけ自然災害に対して起こる。自然災害が起きて本当は避難するべきなのに、「まだ大丈夫だろう」と思ってしまうのである。普段常に「小さな異常事態」が起きていて、それら一つ一つに対し深刻に受け止め対処していると生活が成り立たない。そのため人間にはある程度の鈍感さが備わっている。この鈍感さが正常性バイアスの原因であると指摘されている。
これ以外にも様々な認知バイアスがある。認知バイアスはどれも、直感に近いものであるため、少し冷静になって時間をかけて考えると回避できるものが多い。先述の第二次世界大戦期のアメリカの話がまさに時間をかけて考えてバイアスによる失敗を回避した話である。人間の思考にはこういった傾向や直感があることを知り、少し考えてみて回避することが大切だろう。
参考文献
・板倉龍、Newton、ニュートンプレス、2021、56-57
・京都大学心理学連合編、心理学概論、ナカニシヤ出版、2016、142-143