「クリスマスに1人で過ごしたくない理由」
温かい飲み物を飲み心が温まった経験、寒い時期に誰かと一緒に過ごしたいと思った経験はないだろうか。「体の温度」と「心の温かさ」といったような身体感覚と環境の関係から、「クリスマスを一人で過ごしたくない理由」を考察する。
脳には島皮質という部分がある。この部分は最も早く発達する皮質で、ヒトでは胎生6週ごろから発達する。前部島では認知機能に関する知覚・内受容・情動等に関する活動がみられ、後部島では認知機能への関与は少ないとされている。
喜怒哀楽のうち、特定の情動だけに反応するのか、複数の情動に反応するのか、まだわかっていないものの、単に喜怒哀楽に限らず、絵を見て「感動する」といったような複雑な情動体験もこの部分で行われるといわれている。つまり、この部分は身体と心、両方の温かさを感じることができ、人との共感に関わる部分である。温かいと嬉しい気持ち、寒いと寂しい気持ちになるような、無意識に思考や行動が身体感覚の影響を受けることを心理学用語で「身体化認知」という。本元、山本、菅村(2014)によると、身体化認知とは、判断や思考など高次な 認知処理が感覚や動作といった身体の働きを基盤にしているという認知理論の一つである(串崎,2012; Wilson, 2002)。本元ら(2014)によると、Asch(1946)が他者の印象形成の中心特性として、「温かさ」と「冷たさ」という温度に関する次元を挙げたことを受け、Williams & Bargh(2008)は、 物理的な温度感覚の体験が対人的な温かさ・冷たさの印象形成に影響するかを検証するために次のような実験を行った。実験者は、参加者に少しの間ホットコーヒーもしくはアイスコーヒーの入ったカップを持っているよう頼み、その後で他者の印象評定を行った。その結果、ホットコーヒーを持った参加者は、アイスコーヒーを持った参加者と比べ、人物評定で、他者を「温かい」人柄であると評価することが明らかとなった。これは意識して評価しているわけではなく、身体から感じる温度に影響されて無意識に評価しているのである。日本のクリスマスの時期、つまり12月は比較的寒く、地域によっては雪が降り積もるほどの寒さである。
この実験結果から、寒い時期であるクリスマスには気温に影響されて人を恋しく感じ、その経験をしたことがある人はクリスマスを一人で過ごすのを避ける傾向にあるのではないかと考察する。
参考文献
・本元小百合, 山本佑実, & 菅村玄二. (2014). 皮膚感覚の
身体化認知の展望とその課題. 関西大学心理学研究, (5), 29-38.
・脳辞典「島」https://bsd.neuroinf.jp/wiki/島(最終閲覧日:2021/11/3)