発達心理学の意義

発達心理学の意義

 「三つ子の魂百まで」ということわざがある。これは、「3歳ごろの特徴や性質、記憶は大人になっても持っている」といった意味である。このように、ヒトが生まれた瞬間から大人になるまでに、いつ頃に何ができるようになるか、何がどう変化するのかを研究する学問が発達心理学である。

 「発達」と聞くと、身長が伸びたり体重が増えたりといった身体的なものや、喋れるようになったといった認知的なものを想像するだろう。発達心理学ではこれに加え、他者との関係の変化や情動といった社会性の発達についても研究している。例えば、Moffitらの2011年の研究によると、幼児期の自制心が30年後の健康・経済状態を予測することが明らかになった。つまり、幼児期に自制心がある子ほど、30年後によりよい健康状態、経済状態にあるということである。そのため、親が子供の将来を考えた時、自制心を育むことが一つ重要な点であるということが分かるだろう。また、「心の理論」も子供の発達を語る上では欠かせないだろう。「心の理論」とは、3-5歳児(日本では数年遅れるとされている)ごろに、自分の思考過程が分かるようになり、嘘をつけるようになったり、現実と非現実の区別がつくようになったりする発達の過程を指す。これには、遺伝と環境が影響を与えるとされている。これ以外にも発達心理学の分野では、何か月ごろ、何歳ごろに何ができるようになるかなど詳細な研究が行われているが、それが実際の子育ての場で生かされていないことがある。3年前、当時京都大学教育学部の准教授だった森口佑介氏のツイートが1.3万以上のリツイートを含む大きな反応を得た。そこには、「発達心理学のデータに基づくと、子供を母が育てても保育所が育ててもどちらでも問題はないとだいぶ前から明らかになっているが、学生の反応は『母親が育てた方がよい』に偏っている」と書かれている。このように、発達心理学の知見は古くから存在するにもかかわらず、それが実際の教育や子育ての場面にあまり浸透していないことが分かる。さらに、京都大学人間・環境学研究科の大倉得史教授は、「今までの発達心理学では養育者の存在に目が当てられてこなかった」と述べている。今までの発達心理学では、乳幼児があたかも一人で能力を獲得しているように書かれてきたが、そこに養育者の存在がない限り、身体的な成長もままならないし、言語獲得など全くできない。大倉教授は、発達心理学を乳幼児と養育者の関係からみるべきだと提唱している。

 今までの発達心理学の知見は、なかなか教育や子育ての現場に生かされていないことが問題である。このような研究を積極的に提示し、教育や子育ての現場を改善していくことが、今後の発達心理学の意義になるだろう。また、今まで焦点を合わせていなかったが、発達には重要な養育者の存在も今後研究が進み、よりよい養育者―子供関係が築かれていくだろう。

参考文献

・京都大学心理学連合編、心理学概論、ナカニシヤ出版、2016、210-211, 215

・大倉得史、育てるものへの発達心理学~関係発達論入門~、2019、4-6

・Terrie E. Moffitt, Louise Arseneault, Daniel Belsky, Nigel Dickson, Robert J. Hancox, HonaLee Harrington, Renate Houts, Richie Poulton, Brent W. Roberts, Stephen Ross, Malcolm R. Sears, W. Murray Thomson, and Avshalom Caspi, A gradient of childhood self-control predicts health, wealth, and public safety, PNAS (7), 2011, 2693-2698

・research map、森口佑介、https://researchmap.jp/moriguchiy 

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