共感覚とは?
共感覚についてご存じだろうか。「文字に色がついて見える」人がいる、というのは聞いたことがあるかもしれない。このような感覚のことを心理学用語で「共感覚」と呼ぶ。共感覚にはどのような種類があるのか、共感覚を持つ人の特徴などを見ていく。
そもそも共感覚とは、異なる種類の感覚情報が特殊な形で結びつくことを言う。それは、色と文字が結びつくなどの視覚内で起きることもあれば、音と色が結びついたり、味に形が感じられたりするなど、五感を超えた結びつきがある場合もある。視覚での共感覚は多いが、嗅覚での共感覚は起こりにくいとされている。共感覚の中では結びつきは常に一定である。換言すると、ある日は「あ」が赤に見え、またある日は青に見える、ということはなく、その人の中で常に同じ感覚情報と結びついているとされる。共感覚を持つ人間は決して多くないとはされているが、新生児は五感がそれぞれ未分化であるために誰もが共感覚的であると考えられている。成人が共感覚を持つ理由については明らかになっていない。共感覚者は、色と文字が結びつくことで記憶力の向上などが図れる一方で、自分の中で決まった色があるために、広告などでそれ以外の色がついた文字を見ると不快に感じるなど、不便なこともあるという。記憶力の向上以外の特徴として、その理由は不明ながら、共感覚者は色の物理的識別が一般人よりもよくできることが分かっている。また、共感覚者の色と文字の繋がりは個人に大きく依存するが、黄色は広がりを示し、緑は狭さを表すなどの一定の傾向も明らかになっている。英語圏では使う文字が限られているため研究が進んでいるが、日本では漢字とひらがな、カタカナと文字が多く、色と文字を結びつける共感覚の研究が進んでいないのが現状である。しかし、ひらがなとカタカナでは同じ音の色が似ること(「あ」と「ア」など)、漢字の中では意味に依存して色が似ることが明らかになっている。さらに、日本語を含む5ヶ国の共同研究によって、アルファベットのAの共感覚色が赤になりやすいのは、文字セットの最初の文字の共感覚色が赤であるという説明が可能であり、その説明は5ヶ国語の文字セットでも共通して有効であることが分かった。
「黄色い声」「やわらかい味」など、日常の中にも共感覚的表現は存在する。共感覚者はそう多くなく周囲にいないとしても、五感内外での結びつきは誰でも起こるものである。共感覚者になろうと思ってなることはもちろん不可能だが、何かを覚えなくてはならないときに色などの別の要素を結びつけてみると、記憶の手助けになるかもしれない。
参考文献
・京都大学心理学連合編、心理学概論、ナカニシヤ出版、2016、71
・森田克己、色彩とイメージの共感覚現象に関する一考察、図学研究(32)、1998、53-60
・横澤一彦、色字共感覚の個人特異性と共通性、認知神経科学(21)、2019、32-38
・濱田大佐、京都大学学術情報レポジトリ紅、色字共感覚における共感覚色の決定過程、https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/225688/1/ynink00813.pdf