赤ちゃんへの心理学

赤ちゃんへの心理学

 成人の日本人は英語のRとLとの発音の差異を聞き取れないが、新生児のうちはそれを聞き分けられる、という話を聞いたことがあるだろうか。新生児は五感が未分化で、それぞれの感覚器官も成人と比較すると未発達だが、成人には不可能な能力を持っていることもある。言語による意思疎通が図れない新生児に対する研究の方法と意義を見ていく。

 新生児に対する研究の意義として、まず人間自身の理解が挙げられる。成人の前段階としての新生児を研究することで、発達の機嫌を探ることができる。また、新生児について研究することで、新生児の成長のために与えるべき環境や教育を知ることができる。新生児は言葉を解さないために、実験が難しいとされる。従来は新生児の研究法として自然観察法があった。これは、単純に子供を厳密に観察する方法である。近年は、技術を用いた新しい実験が行われている。まず、選好注視法と言われる方法がある。選好注視法とは、新生児が興味あるものをより長く見る傾向を利用して新生児の認知を特定する方法である。例えば、単純なものよりも複雑なものをより長く見る。また、馴化・脱馴化法というものがある。新生児は新しいものを見るが、やがて飽きてそれを見なくなる。しかし、新しいものが出てくるとその変化に気づき、新規のものを注視するようになる。このように、新生児は視界も未発達ながら変化に気づいていることが分かる。さらに、期待違反法というものがある。新生児は、予期しない事象や刺激に対し注視時間が長くなることが分かっている。これらのことから、新生児も規則性を理解し、次に起こる事象を予測していることが分かる。また、新生児には吸啜(きゅうてつ)という反応がある。これは、母乳を吸うために新生児に生まれながら備わっている本能の一つである。この反応を見ることで、新生児の学習を明らかにした研究がある。DeCasperは、新生児に対し胎児のころに母親が読み聞かせた物語と、新しい物語を聞かせたときの吸啜反応を比較した。すると、胎児のころに聞いていた物語に対して吸啜の頻度が上がった。この実験から、新生児は胎内で聞いたものを覚えていることが明らかになった。また、心拍数も指標の一つになる。新生児は、興味のあるものに注意を向けていると心拍数が下がり、興味のないものや好みではないものに注意を向けていると心拍数が上がることが分かっている。

 このように、新生児は言葉が通じないが、言葉以外の指標を用いて様々なことが明らかになっている。特に、胎内で聞いたことを記憶しているという研究結果がある点は興味深い事例ではないだろうか。実際何を聞かせると頭がよくなるか、性格がどう変わるか、といった長期的な研究は見られないが、名前が決まっている場合は積極的に呼びかけていると、生まれてからも早く覚えてくれることなどがあるのかもしれない。

参考文献

・A J DeCasper, W P Fifer, Of human bonding: newborns prefer their mothers’ voices, Science(208), 1980, 1174-1176

・京都大学心理学連合編、心理学概論、ナカニシヤ出版、2016、210-216

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