IS-LM分析はケインズ体系に有効であるのか

 イギリスの経済学者であるジョン・ヒックスは、1972年にノーベル経済学賞を授与された。授与の対象となった論文のタイトルは『一般的経済均衡理論および厚生理論に対する先駆的貢献』である。ヒックスが提唱したIS-LM分析の概要をまとめてみる。

 ヒックスのIS-LMモデルはワルラスやパレートの一般均衡理論を発展させたものである。ヒックスは、新古典学派の理論経済学者であり、IS-LM分析の創始者だ。※1 
 IS-LMモデルでは、IS曲線とLM曲線の同時均衡を分析する。※3 IS曲線とは、財市場を均衡させる利子率と国民所得の組み合わせを示したものだ。Iは投資、Sは貯蓄を指し、右下がりの曲線である。 ※2 LM曲線とは、貨幣市場を均衡させる利子率と国民所得の組み合わせを示したものだ。Lは貨幣需要量、Mは貨幣供給量を指し、右上がりの曲線である。※4
 ヒックスはIS-LMモデルを提唱したのだが、IS-LMモデルがケインズの『一般理論』に忠実かどうか論争が起こった。ヒックスの主張では、流動性の罠により利子率 が硬直的になりLL曲線が水平になる。この点においてのみケインズ理論を 古典派理論と同一視することができなくなるとしている。利子率が伸縮的であると認めるならば、ケインズ体系と古典派体系が全く同じになるであろうとヒックスは言っているのだ。※ 5
  IS-LM モデルはケインズの一般理論を表現しているのであろうか。IS-LM モデルはマクロ経済学の標準的な手法と見なされているのだが、ヒックスの提唱したIS-LMモデルがケインズ理論とは異なるとの指摘がポスト・ケインジアンからあがった。しかし、ケインズがヒックスに対し好意的であったため、IS-LMモデルの支持者からは容易に反論できると目されたのである。この問題に決着をつけるためには、IS-LM モデルの内部構造と本質を解明することが必要であろう。その上でIS-LM体系とケインズ体系の相違点を洗い出す作業を完成させることだ。この作業が残されているように考えられる。※6

 ヒックスはケインズの流れを組むケイジアンである。ケインズ理論の一般均衡論は体系ができていなかったため、実質的でないとされていた。しかし、ヒックスが提唱したIS-LMモデルと分析によりケインズ体系が仕上がったとみなされている。ヒックスに対しIS-LMモデルはケインズではないとする批判があるのだが、ケインズが認めたことにより一応の決着がついたと言えるだろう。

※1有斐閣経済辞典 ヒックスp.1013
※2有斐閣経済辞典 I S曲線p.1315
※4有斐閣経済辞典 LM曲線p.1321
※5『IS-LM のどこがケインズ的でないか —スラッファを媒介にした解明—』
岡敏弘 2008年11月29日
https://www.s.fpu.ac.jp/oka/keyneshicks4.pdf
p.7
※6『IS-LM のどこがケインズ的でないか —スラッファを媒介にした解明—』 岡敏弘 2008年11月29日
https://www.s.fpu.ac.jp/oka/keyneshicks4.pdf
はじめに

参考サイトWikipedia『ノーベル経済学賞』※ノーベル経済学賞受賞者のピックアップのためにのみ参考にしたhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E8%B3%9E

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