「空気を読む」の根底は何か
日本語には「空気を読む」という言葉がある。「空気が読めない」としばしば嫌悪感を示される。つまりこれは、「場の状況を理解し、その状況に応じたような行動を行え」という意味で使えわれるが、この「空気を読む」とは一体どのような状況なのだろうか。
この状況は「ソロモン・アッシュ」という学者の行った「同調実験」から説明できるだろう。アッシュは「線の長さ」を用いて実験を行った。用紙の左側に一本線が描かれており、右側にA、B、Cと長さがそれぞれ異なる3本の線がある。左側の線と同じものはAである。対象者と実験者が1対1で尋ねた場合、ほぼ100%の確率で対象者は正しい回答ができる。しかし、何名かの用意した研究協力員に「左側と同じ線はBである」と答えるよう促し、対象者は最後に答えるという状況にすると、対象者の正解率は80%となった。すなわち、20%が空気を読んで「間違える」ということである。これは人数が多ければ多いほど、同調する確率が高くなり、対象者以外が同じ意見であればより同調が起きやすいということが分かっている。この同調には「情緒的影響」と「規範的影響」が関係している。情緒的影響とは、自分の意見が正しいと証明できない場合に、「他人と同じ決断をしてしまう」ということであり、規範的影響とは、「一人だけ違うことを行うと集団の中で不適切であると思われるかもしれない」と思い行動してしまう心理のことである。後者は、近年のマスクを付けなければならない社会で想像つくだろう。マスクを付けなければ感染症の拡大が懸念されるため、マスクを「みんながつける」という状況である。この状況下、感染の懸念からという面ももちろん存在するが、「みんなが付けているから、自分だけつけないと目立ってしまう」や「迷惑だと思われてしまう」という状況で説明できる。この2つの影響は必ずしも両方が発動するというわけではなく、どちらか一方の方が強い影響力を持つという場合もある。ただし、これらの同調には個人差がある。育ってきた文化や環境によって、個人の考え方が異なるのと同じである。
このように、「空気を読む」のには場の状況の理解だけでなく、人間特有の心理が関わっていると言えるだろう。つまり、「空気」の根底には「情緒的影響」と「規範的影響」が関係しており、「読むこと」の能力には環境の違いなどから個人差があると言える。「空気を読め」と言われ、相手の思うようにできなかったとしても、問題はない。
北村 英哉 心理学辞典 2020 246-254