「性格を変えないと人は変われないのか」
人は簡単に変われない。「今日変わりたい」と思っても、明日目が覚めたときに性格が変わるという可能性は極めて少ない。変わりたいと思った時、必ずしも性格という「根本的な」ものを変えなければならないのか。
いつも一人で遊んでいる子供がいるとする。その子供が周りの子供たちと遊ばず、一人でいることをどう評価するだろうか。子供が「仲間に入れて」と言えないのならば、「性格が内気だから」と評価するかもしれない。これは、「内気な性格」だから「仲間に入れて」と言えない、つまり「仲間に入れてと言い慣れていない」とも取れる。「内気な性格」をいきなり外向的にするのは難しいが、「言い慣れていない」のならば、「言う訓練」を行うこともできる。こうした「人と関わるための技術」を心理学用語では「ソーシャルスキル」と呼ぶ。このソーシャルスキルには大きく分けて3つの段階がある。まず、適切な行動の知識を持つことである。先ほどの例で言うと、「『仲間に入れて』と言えば、仲間に入れてもらえる」という知識である。次は、その知識をもとに実際に行うという段階である。そして、最後は「行動のフィードバック」である。これは、他者が「よく言えたね」と褒めたり、「もっと大きな声で言えたらいいかもね」とアドバイスをすることである。アドバイスによって行動を修正し、褒めることによって行動を定着させることができる。行動のフィードバックによって自信が持てるようになると、内向的な性格であっても、以前よりも外向的に振舞うことができるようになるという可能性も考えられる。ソーシャルスキルは実際に、教育の場面でも用いられている。ソーシャルスキルが低いと人との接触の少なさからの孤立や、報酬に結びつく行動が減少してしまい、やる気の減少、抑うつ気分、考えがうまくまとまらないといったことが起きる。これらを軽減させるため、学校で挨拶運動を行い「挨拶すること」を身につけさせたり、相手が話しているときに目を見て話し相槌を打つと良いということを教える。相手の気持ちに立って考えるということもソーシャルスキルの一つである。学校だけでなく、発達障害の子供への支援にも大いに役立てられている。
このように、必ずしも性格を変容させることを重視せずとも、スキルを身に付けることで、生活がしやすくなったり、適切に振舞うことができるようになる。人は「根本」からではなく、「振る舞い」から変えられるということである。
参考文献
・心理学辞典 種市康太郎 2020 639-640