臨床心理学の概念と理論

臨床心理学の概念と理論

 臨床心理学とは、心の在り方を研究する学問であり、「精神科」や「カウンセリング」の場で基とされる考えである。心は、他の臓器のように取り出したり、可視化したりできるものではない。それゆえに、どのような理論でも、心のスペシャリストでも、完全に理解することは不可能である。しかし、一人ひとり違うが通底するものはあり、その通底するものを理論にした人は多くいる。

 その一人であり臨床心理学の理論の創始者の一人とされるのがフロイトである。フロイトについて聞いたことがある人は多いだろう。フロイトは本人自身が神経症を患っており、彼も長年悩まされていた。そのような自己と向き合う中で、自身の理論を確立したとされるまず有名なのは、「エディプス・コンプレックス」だろう。これもフロイト自身の経験から編み出された理論である。これは、幼児くらいの男児が母親に恋心を抱き、父親を恋敵と考える心理的葛藤のことを指す。ギリシア悲劇の一部からその名がついている。また、無意識領域を含む心の構造に関する理論を提唱した。フロイトによれば、心は自我、超自我、無意識からなる。自我以外は自分で認識できず、また、夢は無意識から生じるとし、認知できない無意識から生じる夢に心の問題があるとして夢分析も行った。フロイト流の精神分析では、体の症状が出た時、夢や無意識を探り原因を特定する。耳が突然聞こえなくなった女性の症例がある。彼女は、耳鼻科の検査を受けたが何の異常もなく、精神科を受診した。精神科で、耳は「本当は聞こえている」のだが「聞こえない」ようになっていることが明らかになった。その原因をカウンセラーと探っていくうちに、彼女は夫が浮気していた事実を思い出した。当時はそんなこともあるだろうと彼女は思っていたが、確実に彼女の心をむしばんでいて、耳が聞こえなくなるという体の症状となって表れたのだ。彼女は夫と話し合いを続けていくうちに、耳が聞こえないという症状も改善していった。このように、フロイトの精神分析を用いると、原因の分からない体の症状を解決する手助けにもなる。無意識の領域は患者自身が自ら踏み込むことはできないため、カウンセラーの導きが必要になる。

 ここまでフロイトの精神分析や理論を紹介したが、やはりこれらもすべての人間の心を完璧に説明するものではない。実際、主張の違いにより、フロイトは有名な弟子であるユングとアドラーと決別してしまっている。心は見えないため、完璧な説明理論もないし、問題が起きると解決も難しい。しかし、その一つでも知っておくことで自分の問題に生かせるときがくるだろう。

参考文献

・河合隼雄、無意識の構造、中公新書、2017、8-15

・京都大学心理学連合編、心理学概論、ナカニシヤ出版、2016、312-322

タイトルとURLをコピーしました