人の判断の曖昧さ

人の判断の曖昧さ

 生きる上では様々な選択を迫られ、多くの判断を行う。多くの判断の中で、人は時に適切な判断ができない場合がある。本論文では、周囲に多くの人が存在する場合の判断の曖昧さは、どのようなメカニズムで起こるのかを述べる。

 まず、心理学の世界で有名な事件を紹介する。この事件の名は「キティジェノヴェース事件」である。1964年にニューヨークで起きた「キティージェノヴェース」という女性が殺害された。この事件が注目された理由には、殺害されるまでに有した時間が30分近くあり、目撃者は38名も存在したからである。この38名は事件現場付近のアパートの住人で、住人らは彼女の悲鳴を聞いただけではなく、部屋の明かりをつけたり、窓からこの事件を目撃しているという人が多数存在した。それにも関わらず、誰1人として彼女を助けることも、さらには警察へ通報することもなかった。当時の報道ではアパートの住人たちが、他人に興味がなかったからと言われていたが、ダーリーとラタネという2人の心理学者が、住民たちが誰も彼女を助けなかったり通報しなかったのは、他にも「自分以外の目撃者がいたから」であると指摘したために注目されることとなった。この「誰一人通報しない」という事件が発生したのにはいくつかの要因が重なったと考えられている。まずは、その場にいる人々が、「自分が助けに行かなくても、相手が助けに行くだろう」と思ったためである。これは心理学用語で、「責任の分散」と呼び、星田(2015)によると、「責任分散」とは、ある事象のもとで、自分の行動を他者と同調させることで責任や非難が分 散されると考える集団思考および集団行動のパターンのことである。 もう一つの要因は、「自分の周りの人物が助けに行かないと言う事は、大して緊急ではない」と人々が判断したためである。人間は、事態が緊急かどうか判断しにくい時、同じような状況にいる周囲の人物の様子から、事態がどれだけ緊急なのかを判断することがある。このことは、様子を参考にされた相手にも当てはまる。つまり、一方の人物が「他の人が行動しないと言う事は緊急ではない」判断した場合、同じ場所にいる人物も同様の思考により行動しないという状況になるのだ。このように、自分の他にも人がいることで行動が抑制されることも心理学用語では「傍観者効果」と呼ぶ。

 キティージェノヴェース事件から進められた研究によると、周囲に多くの人が存在する場合の判断の曖昧さは、「責任の分散」と「傍観者効果」が関係していると言える。

参考文献

星田昌紀. (2015). ビジネス読書会における傍観者効果についての研究. In 経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2015 年秋季全国研究発表大会 (pp. 359-362). 一般社団法人 経営情報学会.

北村 英哉 心理学辞典 2020  246-254

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