「不登校は怠けか」
学校に行きたくないと自分の子供に言われたらどう感じるだろうか。「怠けている」と思われがちだが、そのような発言には根底に理由がある可能性も否定できない。本論文では、記憶のメカニズムと青年期の危機から考察する。
ロシアの生理学者パブロフは、条件付けの実験を、犬を被検体として行った人物である。通常犬は餌を見ると唾液を分泌するが、この現象を心理学用語では「無条件反応(UR)」と呼び、無条件反応(UR)を引き起こすとされている餌は「無条件刺激(US)」と呼ばれている。パブロフは自分の犬に餌を与えるときに、ベルの音という中性刺激を与え、ベルの音を聞くと唾液を分泌するように条件付けた。この条件付け後のベルの音を条件刺激(CS)と呼び、この条件刺激によって引き起こされた反応、すなわち唾液の分泌を条件反射(CR)という。この条件付けを心理学では「古典的条件付け」と呼ぶ。この古典的条件付けは、人間の感じる「恐怖」とも深く関連している。例えば、電車に乗っている際、事故にあったとする。その事故以来、「電車に乗れない」という状況、いわばPTSDのような現象は、頭では「もう事故は起こらない」、「あの日は偶然事故と遭遇した」と理解していても、体が拒否反応を示すのだ。これと同様、「学校へ行きたくない」という子供にも、同じような現象が学校内で起きている可能性も考えられる。その具体例がいじめである。身体へ直接危害を与える暴力はもちろんのこと、精神面への危害も考慮する必要がある。いじめによって恐怖が条件付けられ、無理やり学校へ行くと、身体症状が出る。身体症状の代表的な例は、胃の不快感を初め、頭痛、倦怠感、身体の痛み、朝起きられないなどである。 小学校卒業頃の12歳から大学卒業程度の22歳あたりは、エリクソン の心理発達理論によって「青年期」であると位置付けられている。この青年期では、「自分とは何か」を模索するために、様々な葛藤を抱える時期である。青年期には不安障害や、統合失調症などの思考の障害、摂食障害の発症率が高い。また、この時期の最も多い死因は自殺である。安易に怠惰であると評価すると生命に関わる危険性がある。
以上のことから、この葛藤多き青年期に、子供が「学校に行きたくない」と言ったり、不登校になることは決して怠惰によるものではなく、内因や外因、心因が関わっていると言える。本人はもちろんのこと、環境に対しても適切な介入が必要であると考える。
参考文献
・澤 幸祐 誠信心理学辞典 2020 68-69
・入來 篤史 脳科学辞典「記憶の分類」https://bsd.neuroinf.jp/wiki/記憶の分類(最終閲覧日:2021/10/24)
・ Josephine Elia 「DSM マニュアル プロフェッショナル版」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/19-小児科/小児および青年における精神障害/小児および青年における抑うつ障害(最終閲覧日:2021/10/24)